「発明についてもう少し知っておきたい。
知的財産管理の部署はどこまでやってくれるの。
当たり前にしか見えないけど本当に特許になるの。」
こういった疑問にお答えします。
本記事の内容
- 特許における発明について説明します
- 技術者が特許を出願して登録するまでの手順
- あなたの当たり前が特許になる理由
この記事を書いている私は、ディスプレイ用ICの開発を20年近くやってきました。
特許を20件以上出願、登録し、知的財産管理技能検定3級に合格しています。
こういった私が解説していきます。
特許における発明について説明します
発明は「問題や課題に対して技術的に対処した内容」となります。
少し言い換えますと、「問題や課題」、「技術的内容」、「効果」の3つが明確になっていればそれは「発明」であるということになります。
発明についてはこちらの記事でも解説していますのでご参考ください。
>>特許とは何かわかりやすく説明します【発明のイメージを変えましょう】
ただし発明にあたらないケースが3つありますので、そこは注意して頂く必要があります。
【発明に当たらないもの】
- 人為的に取り決めたもの
- 技能的なもの
- 完全なコピー
①人為的に取り決めたもの
技術開発では仕様で取り決めたものとなります。
例えば「コマンドAを入れてからコマンドBをいれるとバグが発生するので、コマンドBを一番最初にいれる」といったような内容です。
問題が発生した場合、仕様の修正で対応した場合は発明とはなりません。
発明はあくまで技術的な内容である必要があります。
②技能的なもの
効果が人の能力に依存するものとなります。
例えば「プログラミングを効率よくデバッグする方法」とか「正確にタイピングする方法」といった内容です。
これは人によって効果の度合いが違ってくるので、技能的なものとなります。
技術的なものというのは「バグを検出するアルゴリズム」といったような内容で、誰がやっても同じ効果が得られるものとなります。
③完全なコピー
完全なコピーは言うまでもなくダメです。
ただし「完全な」というところがポイントで、一部でも違いがあればそこが新規となりますのでその部分は発明となります。
また従来技術の組み合わせでも、完成したものが新規であれば発明となります。
技術者が特許を出願して登録するまでの手順
技術者の方が知的財産管理の部署の人とどういうやり取りをして特許を出願、登録するかを説明します。
大まかな手順は下記のとおりです。
- 特許のネタを整理する
- 知的財産管理部に依頼
- 弁理士の方と打ち合わせ
- 明細書の確認
- 拒絶理由の対応
それぞれ説明していきます。
1.特許のネタを整理する
まずは特許のネタを整理しましょう。
やることは「問題や課題」、「技術的内容」、「効果」の3つを明確にすることです。
私自身の特許の例で説明しますと下記のようになります。
・問題や課題:ディスプレイ用ICの出力を使ってLEDを点灯すると点滅してしまう
・技術的内容:ICにセレクターを追加して出力をスイッチングしないようにする
・効果:ディスプレイ用ICの出力を使ってLEDを点灯できる
2.知的財産管理部に依頼
会社によっては特許出願の依頼書があるかもしれませんが、いきなり依頼書を書かずにまずは相談するのが良いかと思います。
整理した特許のネタを知的財産管理部(以下、知財とします)に説明すると、知財の方から説明や追加の資料を求められることがありますが、そこは指示に従って対応してください。
知財で出願できそうだなと判断されると次に進みます。
3.弁理士の方と打ち合わせ
先程と同じで特許のネタを今度は弁理士の方に説明します。
基本的には知財の人も同席しますので、技術的な内容を説明するだけでOKです。
4.明細書の確認
技術内容が説明された明細書が作成されてきますので、その内容を確認します。
かなりしっかりとした文章となっていますので、がんばって対応しましょう。
ここまで完了すれば出願の準備が整います。
出願自体は知財と弁理士の方が対応してくれますので、特に気にしなくて大丈夫です。
5.拒絶理由の対応
特許という権利を得るために、特許として問題ないかを特許庁に審査してもらいます。(言い換えますと権利化のために審査請求します。)
ここで審査官から「こういう理由があるので特許としては認められません」という拒絶理由がくるケースが多いです。
この拒絶理由は基本的に知財の人が対応するのですが、技術的な内容について相談されると思います。
ですので丁寧に対応するようにしましょう。
ここがクリアできますと晴れて特許を取得することができます。
特許出願から登録までは早くても2〜3年くらいかかります。
本来の業務の合間に対応するといった感じで大丈夫です。
あなたの当たり前が特許になる理由
一言で言ってしまいますと「具体的にすることで範囲が限定される」からです。
範囲が限定されることであなたにとっては当たり前でも他の人からは当たり前ではなくなります。
結果としてそれは立派な発明となります。
具体的にするとは「適用範囲」と「構成や方法の内容」を明確に表すことです。
私自身の特許で説明します。
特許の概要はディスプレイ用のICにセレクターを追加して出力をスイッチングしないようにするという内容です。
ここで「適用範囲」と「構成の内容」を次のように明確にしています。
適用範囲:単にICではなくディスプレイ用ICとしている
構成の内容:セレクターを追加した箇所を詳細にしている。
これを踏まえますと「ディスプレイ用のICについて、回路Aと回路Bの間にセレクターを追加して信号Xで選択できるようにした」という感じになります。
単に「ICにセレクターを追加した」という内容ですと抽象度が高く一般的な内容になりますが、このように具体的にすることで専門的な内容になっていることがお分かり頂けるかと思います。
ここで具体的にするのはいいけど他の人でも簡単に思いつく内容になっているのでは、と考える方もいらっしゃると思います。
確かに「簡単に思いつくかどうか」は言い換えますと「進歩性があるかどうか」ということになり、特許を審査する上でとても重要なポイントとなっております。
しかし自分では当たり前のことをしているという感覚が邪魔をして、進歩性があるかどうかを自分自身で判断するのは難しいです。
進歩性があるかどうかの判断は客観的に見てもらうことが大切ですので、ぜひ知財の人に相談するようにしてみましょう。
あなたにとっては当たり前のことでも「具体的にすることで範囲が限定される」ことで特許になる可能性は十分にあります。
まとめ
特許における発明について説明しました。
開発や研究をされている方で、特許の出願は思っていたよりもそれほど難しくなさそうだなと感じてくれればありがたいです。
特許を出願するメリットについてはこちらの記事で解説していますので、ぜひご参考ください。
>>特許とは何かわかりやすく説明します【発明のイメージを変えましょう】