「MOSFETの動作原理が知りたい。
p型半導体なのに電子があるの?
MOSFETの電流はどうやって決まるの?」
こういった疑問にお答えします。
本記事の内容
- MOSFETの動作原理
- 少数キャリアに注目しよう
- 電流は「移動度×電荷量×電界強度」です
この記事を書いている私は、ディスプレイ用ICの開発を20年近くやってきました。
特許は20件以上出願、登録しています。
こういった私が解説していきます。
MOSFETの動作原理
MOSFETはゲートに印加する電圧をコントロールすることで、電流の流れを制御します。
ここではNMOSについて説明します。
まずはNMOSの構造を御覧ください。
p型半導体の中にソースとドレインとしてn型半導体が配置されています。
ソースはキャリアの供給元、ドレインはキャリアの流れる先となります。
NMOSは電流がドレインからソースに流れます。
これはNMOSのキャリアが電子なので、電子の流れる方向と電流の流れる方向が反対になるからです。
しかしNMOSの初期状態では電流は流れません。
ゲートの下がp型半導体になっていて、pnダイオードが形成されるためです。
ここでゲートに電圧をかけると、電子がゲートの下に集まってきます。
このときゲートの下は電子の量がホールよりも多くなるので、ゲートの下は一時的にn型半導体になります。
こうなるとソースとドレインがn型半導体でつながるので電流が流れるというわけです。
つまりゲートに電圧をかけることで少数キャリアである電子が集まって、ゲート下が一時的にn型半導体になり電流が流れるということになります。
PMOSの場合はゲートにマイナス電圧をかけることでゲート下が一時的にp型半導体になり電流が流れます。
このようにMOSFETはゲートに印加する電圧をコントロールすることで、電流の流れを制御します。
少数キャリアに注目しよう
p型半導体のキャリアはホールなのになんで電子がいるの?と思った方もいらっしゃるかもしれません。
ここで気をつけていただきたいのが、ホールはあくまで多数キャリアであるということです。
つまりホールと電子の両方が存在していて、ホールのほうが数が多い状態のなっているということです。
まずそもそも純正半導体は外部からエネルギーをもらって電子が励起します。
このときホールも発生するので、純正半導体は電子とホールの数が同じになります。
この純正半導体に不純物を加えることで意図的にホールを増やしたのがp型半導体になります。
例えば電子が100個、ホールが100個ある純正半導体に不純物を加えてホールを200個にするといった感じです。
電子は100個、ホールは200個になり、ホールの数が多いのでp型半導体になるというわけです。
つまりp型半導体はホールの数が多いだけで電子が存在しないわけではありません。
数が多いキャリアは多数キャリア、数が少ないキャリアは少数キャリアとなります。
p型半導体ではホールが多数キャリア、電子が少数キャリアとなり、n型半導体では電子が多数キャリア、ホールが少数キャリアとなります。
この少数キャリアをうまく使って電流を制御するのがMOSFETとなります。
MOSFETの動作原理を理解するときは少数キャリアのふるまいに注目しましょう。
こちらの記事も参考にしてみてください。
>>n型半導体について説明します【ポイントをおさえれば簡単です】
電流は「移動度×電荷量×電界強度」です
MOSFETの電流は次の3つで決まります。
- 移動度
- 電荷量
- 電界強度
これは電流が「移動度×電荷量×電界強度」で決まるからです。
それぞれについて説明します。
1.移動度
移動度とは電子やホールの移動のしやすさです。
この移動度は温度に依存していて温度が上がると移動度は下がり、温度が下がると異動度は上がります。
これは電子やホールが移動する時に原子が振動していて邪魔されるのですが、温度が低いとその振動が少なくなって邪魔されにくくなるからです。
ここで半導体は高温のほうが電流が多く流れるのではないの?と考えたかたもいらっしゃると思います。
確かに半導体そのものは温度が高いほうが電流が多く流れます。
しかしこれは励起によってキャリアが増えて電荷量が増えるからです。
移動度は低下しているのですが、電荷量の上昇が大きいために全体として電流は増えるということになります。
MOSFETは電荷量がゲート下に集まったキャリアの数で決まるので、温度によって電荷量が増えたりしません。
したがって高温になっても移動度だけが低下するので電流は少なくなります。
MOSFETでは低温では移動度が上がり電流が増えて、高温では移動度が下がり電流が減ります。
2.電荷量
電荷量とはゲート下に集った少数キャリアの量のことです。
この電荷量はコンデンサの式「Q=CV」で算出できます。
つまりMOSFETはゲートから見るとコンデンサになるわけです。
ここで「Q=CV」のCはゲートのコンデンサ容量、Vはゲート電圧(Vg)になります。
おおまかにであれば電荷量はこれで計算できるのですが、もう少し正確に計算するにはスレッショルド電圧(Vt)とドレインの電圧(Vd)を考慮する必要があります。
スレッショルド電圧は少数キャリアが集まり始めるゲート電圧となります。
ゲート電圧がスレッショルド電圧以下ですと、少数キャリアが集まりません。
スレッショルド電圧を考慮すると「Q=C(Vg-Vt)」となります。
またドレインの電圧分も差し引く必要があります。
ソース側は0V、ドレイン側はVdとなりますので、平均してVd/2だけ引きます。
つまり最終的にはQ=C(Vg-Vt-Vd/2)となります。
MOSFETの電荷量はゲート容量、ゲート電圧、スレッショルド電圧の3つで決定されます。
3.電界強度
電界強度はソース、ドレインの間の電界の大きさとなります。
電界は「(ソース – ドレイン間の電圧) ÷ ゲート長」となります。
NMOSではソースは0Vなので、ドレインの電圧をVd、ゲート長をLとしますと、電界強度は「E=Vd/L」となります。
つまりドレインの電圧を上げるか、ゲート長を小さくすれば電流を増やすことができます。
(補足)MOSFETはある程度ドレイン電圧を上げると飽和して電流が一定になります。
【参考】 MOSFETの電流の式について
MOSFETの電流の式について説明しておきます。
電流の式は「移動度×電荷量×電界強度」となります。
移動度はμ、電荷量はQ=C(Vg-Vt-Vd/2)、電界強度はE=Vd/Lとなりますので、単純に掛け算すればOKです。
I=μ × C(Vg-Vt-Vd/2) × Vd/L
これは単位幅あたりの電流ですので、ゲート幅=Wを掛けます。
I=W × μ × C(Vg-Vt-Vd/2) × Vd/L
式を少し整理しますと次のようになります。
I=W/L × μ × C(Vg-Vt-Vd/2) × Vd
これで教科書に載っている式になったと思います。
MOSFETの電流式をご紹介しましたが、電流は「移動度×電荷量×電界強度」であることを理解しておけば、この式を暗記しておく必要はありません。
まとめ
MOSFETの動作原理について説明しました。
この記事を読んで大まかにでもMOSFETの動作について理解していただけたらありがたいです。
よろしければこちらの記事もご参考ください。
>>【半導体】MOSとは何かについて説明します【初心者向けです】