自動車向け半導体の3つの特徴【何が違うのかを説明します】

自動車向け半導体について知りたい人
「自動車向け半導体は何が違うの?
半導体が不足するのはなぜ?
品質を上げるにはどうしてるの?」

こういった疑問にお答えします。

本記事の内容

  1. 自動車向け半導体の3つの特徴
  2. 自動車向け半導体が不足する理由
  3. 品質を上げるために必要なこと

この記事を書いている私は、ディスプレイ用ICの開発を20年近くやってきました。
TS16949など自動車向けの設計基準に従って開発をした経験もあります。
特許は20件以上出願、登録しています。

こういった私が解説していきます。

自動車向け半導体の3つの特徴

自動車向け半導体の特徴は次の3つになります。

  1. 注文が安定している
  2. 品質が高い
  3. 価格は民生品よりも高い

半導体は「ICの材料となる物質」となります。
ただしここでは「半導体=IC(半導体製品)」と認識して頂ければOKです。

詳しく知りたい方はこちらの記事をご参考ください。
>>【初心者向け】半導体とは何か、わかりやすくまとめました【簡単です】

1.注文が安定している

自動車は製品寿命が4〜6年と長いですので、その間は定期的に注文がもらえます。

また一つの車種にICが採用された場合、他の車種にも展開されるケースもありますのでさらに注文が安定したりします。

自動車向け半導体は一定の数量の注文を長期でもらえるというメリットがあります。

2.品質が高い

自動車は「安全であること」が最優先となりますので、自動車に搭載される部品も高い品質が要求されます。

そのため自動車向け半導体は製造だけでなく設計から品質を考慮しています。

自動車向けの設計手順に従って設計をすすめたり、製造工程を厳しく管理するなど工数をかける必要があります。

また最先端の技術を導入するよりも実績のある技術を使用していくことが多いです。

3.価格は民生品よりも高い

半導体製品の価格ですが、自動車向け半導体は民生向け半導体(以下、民生品)よりも高くなる傾向があります。

これは高い品質を確保するために工数をかけているからです。

ただし最近では民生品との価格差がそれほどなくなっているケースもあります。

自動車向け半導体が不足する理由

自動車向け半導体が不足する理由は、「半導体工場の生産の枠がとれないから」となります。

半導体工場は1ヶ月で生産できるキャパが決まっています。
キャパは生産できるウエハ枚数のことで、例えば「1ヶ月のキャパは5万枚」という感じになります。

スマホや家電製品などの影響で半導体全体の需要が上がると、半導体工場の供給が追いつかなくなってきます。

この時にキャパの取り合いになるのですが、自動車向け半導体はこのキャパの確保が不利なところがあります。

その理由は次の通りです。

  • 利益は民生品のほうが高い
  • 民生品は大量注文する
  • 自動車向けは長期で注文をしない

・利益は民生品のほうが高い

先程、価格は自動車向けのほうが高いと説明したのですが、利益は民生品のほうが高い傾向があります。

自動車向けは品質を確保するために工数をかける必要がありますので、コストが高くなるからです。

また自動車向けは数年に渡って取り引きを続けることになりますので、定期的に価格を下げたりもしています。

つまり民生品は受注は短期的になるのですが、利益は高いということです。

このためキャパの確保において、自動車向けよりも民生品のほうが優先されてしまう傾向があります。

・民生品は大量注文する

民生品の製品寿命は1年や半年などと短いのですが、その分まとめて注文をします。

またスマホなど1人に対して1台というような製品ですと、自動車向けに比べて注文する数量が多くなります。

民生品は大量に注文することで、生産の枠をとることが自動車向けよりも有利になります。

・自動車向けは長期で注文をしない

自動車向けは製品寿命は長いのですが、注文は民生品と同じように直近の分だけとなっています。

つまり1年分とか2年分といった長期の注文の発行はしていないです。

そのため注文は長期で安定しているにもかかわらず、キャパは長期的に確保できていないという状況になっています。

ここでそうは言っても半導体工場のほうである程度は融通してくれるのではないの?と考えた方もいらっしゃると思います。

確かに自動車向け半導体は長期で取り引きをしていますので、ある程度は半導体工場のほうでキャパを確保します。

ただし民生品から大量注文が入ると優先度が下がります。
このため注文してから半導体が納入されるまでの納期が長くなります。

具体的には、通常は注文してから4ヶ月くらいの納期だったのに、それが6ヶ月になるといったことが起こります。

つまりキャパは確保できても優先度を下げられるため納期が長くなり、半導体が手に入らないという状況になります。

半導体工場での製造の優先度が下がる、つまり「半導体工場の生産の枠がとれない」ことで自動車向け半導体が不足するということになります。

品質を上げるために必要なこと

半導体において品質を上げるために必要なことを3つご紹介します。

  1. テストを強化する
  2. 異常管理を実施する
  3. クレーム対応をきちんと実施する

1.テストを強化する

出荷時に実施するテストを強化することで品質を上げます。

半導体は基本的にシリコン結晶の基板をベースに製造するのですが、その結晶は100%の純度ではありません。

つまりシリコンの基板には必ず欠陥があります。
この欠陥がICに含まれてしまうと、稼働している最中で故障が発生してしまいます。

ですので電圧や温度でストレスをかけてこういった欠陥を含んだICを除去していきます。

テスト→ストレス→テストという感じでストレスを入れつつテストを実施することで、テストを強化します。

2.異常管理を実施する

製造していて普段と違う状態になったときに、いち早く察知して対応することで品質を上げます。

具体的にはテストの結果をモニターします。

不良率が極端に低い場合は、きちんと原因を明確にします。
そのとき問題があれば出荷を保留します。

問題がない場合でも納入先に連絡をいれて、確認をとったあとで出荷するというケースもあります。

3.クレーム対応をきちんと実施する

市場で故障が発生した場合、きちんと原因を解析して対策を実施します。

民生品では基本的には良品と交換で済むケースがほとんどです。

しかし自動車向けは安全の確保が第一となるため、たとえ一つでも故障が発生した場合はきちんと解析を実施して原因を明確にします。

こうして市場からもフィードバックすることで品質を向上していきます。

まとめ

自動車向け半導体について説明しました。

自動車向け半導体はどういった特徴があるのか、少しでもイメージを掴んで頂けたらありがたいです。

もう少し詳しく半導体について知りたい方は、こちらの記事を御覧ください。

・半導体について
>>【初心者向け】半導体とは何か、わかりやすくまとめました【簡単です】

・MOSについて
>>【半導体】MOSとは何かについて説明します【初心者向けです】

・n型半導体やpn接合について
>>n型半導体について説明します【ポイントをおさえれば簡単です】
>>pn接合についてわかりやすく説明します【イメージできれば簡単です】